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いますぐできる!サージカルスモークのリスク低減方法

人々の命を守る医療従事者は、さまざまな危険と隣り合わせでもあります。
セントラルユニはいのちを守る環境づくりをミッションとしていますが、その対象には当然医療従事者も含まれます。
私たちがよりよい治療環境を考えるうえで捉えている課題のひとつ、サージカルスモークについてお伝えします。


サージカルスモークとは

電気メスなどのエネルギーデバイスを使用することによって発生する煙をサージカルスモークといいます。
サージカルスモークには水分や細胞以外にも細菌やウイルス、発がん性物質が含まれており、新型コロナウイルス感染症の流行によってその危険性が再注目されました。
現在ではサージカルスモークが健康に及ぼすリスクに関して多くの研究がなされています。

危険性とリスク低減方法

患者さんは体内からサージカルスモークを吸収してしまう可能性がありますし、医療従事者は繰り返し手術に関わるため、術野から拡散するサージカルスモークに何度も曝されることになります。
 
サージカルスモークへの対策として筆頭に挙げられるのは、発生部位から直接煙を吸い取る排煙装置です。一部の国や地域では使用が義務化されています。

日本でも、日本医学会連合と一般社団法人日本外科学会を含む12の学会による提言として「電気メスを使用する際は排煙装置を用いる」という指針が発表されています。

新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言

手術室空調が担う役割も重要です。手術室の空調は、少なくとも室内の空気が一時間に15回以上入れ替わるようになっています。HEPAフィルターと呼ばれる性能の高いフィルターを通ったきれいな空気は、手術室の天井から術野へ送り込まれます。
 
最近では、送り込む空気の温度差を小さくする輻射式空調システムがサージカルスモークへの対策として注目されています。
輻射式空調システムでは、一般的な対流式の空調と比較して縮流が起こりにくくなります。そのため、術野上で発生したサージカルスモークが留まりづらく、空調吸い込み口に吸い込まれていきます。

いますぐに病院でできること

有効な機器や設備を導入すれば良い、と言うのは簡単ですが、実際には実現が難しい場合もあるかと思います。
そこで、すぐにでも運用で工夫できることをご紹介します。

空調吹き出し口の位置
手術室の空調吹き出し口の位置は、多くの病院の場合部屋の中央の天井にあります。
最もきれいな状態の空気が術野に降りてくるのが理想的なので、手術室をつくる時には手術台の真上に吹き出し口がくるよう設計されています。
設計段階では想定していなかった運用により、吹き出し口と手術台の位置がずれていないか、今一度チェックすることをおすすめします。

無影灯の位置
前述のとおり、手術室に送られてくるきれいな空気は患者さんの真上から降りてきています。しかし、実際には術野を照らすための無影灯が清潔な空気を妨げていることがあります。
可能であれば、少し斜めから光を当てることでサージカルスモークへの曝露リスクを下げる可能性があります。

吸い込み口のチェック
きれいな空気は天井から降りてきますが、古い空気を吸い込む場所ももちろん存在します。多くの場合は手術室の四隅の壁(下部)にあり、医療機器等で塞いでしまっていることもあるため注意したい点です。

吸い込み口の前にものが置かれている様子

手術に関わる全ての人が安心できる環境を目指して

患者さんの命を預かる医療従事者は、時に危険にさらされることもある、身体的にも精神的にも負担の大きな仕事です。
患者さんや医療従事者、そこに関わる全ての人が安全で安心できる治療環境づくりに向けて、私たちはさらなる努力を続けてまいります。

参考文献

横江巧也. "サージカルスモーク中のヒトコロナウイルス RNA の検出, 及び感染性の定量, 感染防御法の検討." 関西医科大学雑誌 74 (2023): 7-12.

渡邊祐介. "サージカルスモーク―その危険性と安全対策について―." 医療機器学 93.4 (2023): 510-515.

篠原一彦. "手術中のサージカルスモーク対策における人間工学的課題." 人間工学 57.Supplement (2021): 2F1-2.


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