【イベントレポート】幻肢痛チャリティー トーク&ライブ
幻肢痛とよばれる痛みがあること、その痛みによって苦しんでいる人がいることを、より多くの方に知ってもらいたい―—。
そんな思いで、幻肢痛チャリティーイベントが開催されました。
2月11日に当社ショールームで開催された様子を、イベントレポートとしてお届けします。
▼イベント概要はこちら
手がないことよりも、痛みが障害になっている
イベントは2部構成で行われました。第1部のトークセッションは「幻肢痛緩和への取り組みについて」というテーマで、主催者である株式会社KIDS 代表 猪俣様がご登壇されました。
「幻肢痛に悩む人同士のコミュニティをつくりたい」という思いで設立された幻肢痛交流会の取組や、ご自身の幻肢痛の体験談、当事者として研究開発を進めている「痛みを緩和するVRシステム」の開発経緯などをお話されました。
印象的だったのは「手がないことよりも、痛みが障害になっている」という言葉です。
幻肢痛の痛みは人によってさまざまで、猪俣さんご自身は幻肢の手の血管に砂利が入っているような鋭い痛みに長い間苦しんだといいます。
そして、痛みがある間はほかのことが考えられず、明日やこれからのことを考える余裕はなかったそうです。
ご自身の経験から、猪俣さんはこう語ります。
「幻肢痛に苦しむ人は、痛みが緩和してようやく未来のことが考えられるようになる。VR訓練によって痛みが緩和された患者さんの中には、70歳で再度免許をとって奥さんをドライブに連れて行きたいと志している人もいる。それこそがゴールで、それを一緒に達成したい。」
痛みというのは主観で、当事者にしか分からないもの。
だからこそ、当事者自身が「つくり手」となって痛みを緩和するVRシステム開発や、訓練を継続できる環境づくりに精力的に取り組まれている猪俣さんの熱い想いが伝わってくる、素敵な講演でした。
幻肢痛患者にとって希望の光、痛みを緩和するVRシステム
当事者パネルディスカッションでは、東京工業大学科学 技術創成研究院 未来の人類研究センター長を務める伊藤亜紗さんをモデレータにお招きし、6名の当事者に幻肢痛の痛みやVR訓練の効果について語っていただきました。
同時進行で、会場の大きなホワイドボードを用いてグラフィックレコーディングも行いました。
当事者が語る「幻肢の在り方」や「幻肢痛の感じ方」は様々で、腕をハンマーで叩かれるような痛みや、ペンチで足の指の先を潰されるような痛み、中には気絶するほどの痛みと20年以上闘ってきたという方もいました。
そんな痛みが、猪俣さんが開発されたVR訓練システムを使い始めてから緩和されたといいます。
痛みの和らぎ方や訓練効果も人によって異なり、常に100㎏近い重りがついているように感じる腕が瞬時に軽くなったという方や、障害がある腕の可動範囲が広がったという方もいました。
訓練を重ねることで、幻肢に触覚を感じるようになったという方もおり、様々な効果が出ていました。
幻肢痛に苦しむ人にとって、痛みを緩和するVR訓練システムはとても画期的なものなのだと感じました。
フルートとピアノが織りなす美しいハーモニー
第2部では、視覚障害を持つフルーティスト綱川 泰典さん、ピアニスト酒井 亮さんによるライブコンサートが行われました。
お二人が奏でる音楽はとても繊細で優しい音色で、その世界観に引き込まれ、約1時間のコンサートはあっという間に過ぎていきました。
当事者ならではの工夫がつまった展示・体験コーナー
展示・体験コーナーでは、幻肢痛を緩和するVRシステムをはじめ、肩パッド・短下肢補装具の展示やボディスキャンが行われていました。
片手で使える便利グッズやお作法Book、災害時の栄養補助食品「ライフスープ」が販売され、多くの方で賑わいをみせていました。
当事者自身がつくり手になるのは、わたしたちの理想
このイベントに関わらせてもらい、当事者自身が「つくり手」となる猪俣さんの取組は、まさに私たちがブランドコンセプトとして掲げる「つかう人を、つくる人に」の目指す姿であると感じました。
どれだけ当事者意識を持とうと努力しても、メーカーである私たちには限界があり、医療スタッフと全く同じ目線には立つことはできません。
だからこそ、医療スタッフを巻き込み、当事者にしか分からないことを環境づくりに反映させていく。
これが「理想の環境づくり」になると、今回のイベントを通じて確信しました。
同時に、医療環境というフィールドを出た先で、患者さまがどんな風に過ごしているのかを知ることは「医療環境のつくり手」として、大切な視点になると感じました。
これからも、患者さまが安心して治療を受け、元気に社会復帰ができるよう、医療環境づくりに寄与していきます。