既存製品デザインリニューアルの開発経緯 ~デザイナー視点でよかったと思うこと~
医療ガスの供給口であるアウトレットのNSVタイプは、長年デザインを変えることなく販売されてきました。しかし、時代とともに変化するニーズに対応するため、デザインリニューアルが必要となりました。
アウトレットデザインリニューアルプロジェクトの中心メンバーである、製品設計の長尾氏とデザイナーの村田氏に、プロジェクトの背景や苦労した点などを伺いました。
なお、本インタビューは村田さんから長尾さんへの熱い推薦があって実現しました。声をあげてくだった村田さん、対応くださった長尾さん、ありがとうございます!
なぜ製品リニューアルがはじまったのか?
──リニューアルプロジェクトが始まった経緯を教えてください。
-村田: 所属長経由で相談が来ました。
その時はレトロフィットという言葉を使っていて、NSVレトロなどと言っていました。
最初の打ち合わせでは状況がよくわからず、自分の中で内容を整理するためにメモを作り、工場の方々に送った記憶があります。
──工場側の立場から見て、プロジェクト開始時の状況はどうでしたか?
-長尾: 村田さんにご協力をお願いした時は、正直工場側としては煮詰まっていました。
私ははじめからプロジェクトに関わっていたのではなく、前任がいて、その後を引き継ぐ形で参加したので、その時点ですでに試行錯誤は繰り返されていました。
また、レトロフィットという名前の通り、現行品の基盤を活かし、バルブだけを新しいものすべく、各部品のコストを洗い出してみましたが、コストダウンは難しい状況でアウトレットNSVタイプの形を生かしつつ、どう価値を高めるかで行き詰まり、村田さんに相談しました。
──アウトレットNSVタイプのデザインリニューアルプロジェクトで、最初に考えられていたのはどのような点でしたか?
-長尾: 最初は付加価値や追加機能などを考えていましたがどうしてもコストアップ要因しかないという状況でした。抗菌抗ウイルス性の樹脂が使えるかなどを検討しましたが、なかなか難しい課題でした。
プロジェクトの進め方と村田氏の役割
──プロジェクト開始後、具体的にどのように進めていきましたか?
-村田: 工場の方々と打ち合わせを重ね、材料を変えたらどうかなど条件を絞っていきました。AとBならどちらがいいか、Cだったらこんなことが実現できるなど、整理していくと自然と選択肢が絞られていった印象です。
──プロジェクトと並行して、すぐに大きな課題があったそうですね。
-長尾: 実は、NSVタイプの化粧プレートの金型が寿命を迎えるタイミングが重なりました。金型を作り直すならデザインも変更しようという流れになりました。
──プロジェクトを進める中で村田さんの役割はどのようなものでしたか?
-村田: 私の役割は、プロジェクトの方向性を定めるために情報を整理し、ビジュアルを作成することでした。材料や条件を変えた場合のオプションを提示し、工場の方々と議論を重ねました。
選択肢を明確にすることで、自然とプロジェクトの方向性が絞られていったと思います。リニューアルの方針が決まってからは、大きな課題はなく進められました。
──長尾さんは工場側の立場として、どのような役割を果たしましたか?
-長尾: 村田さんの提案を受けて、実現可能性を検討し、具体的な仕様を詰めていくのが私の仕事でした。特に、コストダウンが難しい点や、化粧プレートの金型交換が必要になったタイミングの悪さなど、生産現場ならではの事情を共有しました。
デザイン決定までの課題と解決策
──プロジェクトを進める上で、一番大変だったのはどの部分ですか?
-長尾: 村田さんに相談する前の、いくら案を出しても進まない状態、最終形のイメージがない状態の時ですね。
村田さんに相談するようになってから、数回の打ち合わせののちにいきなりフォトショップでビジュアルイメージを提示してくれたのです。
すると「これで行こう」というムードになりました。
私は、白い化粧で角に丸みを付けた場合のイメージをつくってもらうことで、具体的に何を変えればいいか見えていたので、金型の問題、コストを抑えることも「できそうだ」と確信に変わっていきました。
──ビジュアルを作ることの重要性について教えてください。
-長尾:情報整理とビジュアル化によって、プロジェクトの方向性を決めることができました。
工場側である程度の情報整理はしていましたが村田さんが客観的な立場で整理して、ビジュアルを作ってくれたことで、プロジェクトを進めやすくなった印象があります。
──村田さんから見て、このプロジェクトの課題解決のポイントはなんでしょうか?
-村田:長尾さんとの打ち合わせの中で、気になることを聞くとすぐに答えが返ってきて、できないことや消せるものが明確になっていったことですかね。外観、コスト、メンテナンスの観点で条件を整理し、セントラルユニ製品のアイデンティティーである3つのこだわりを踏まえながら提案していくことが重要でした。
▼3つのこだわり
「Reliable:信頼性や誠実性を感じる」
「Friendly:使い易く、親しみを感じる」
「Clean:明快で清潔感がある」
特に、長年使い続けられてきた強みを生かすことが刺さったようです。NSVタイプの良さを再認識できたプロジェクトだったと思います。
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リニューアルデザインの方向性
──リニューアルデザインを決めるにあたって、特に気をつけたことは何ですか?
-村田: NSVタイプの形状や印象は長年積み上げてきた資産だと考えたので、そこから大きく外れすぎないように気をつけました。1日2日で積み上げられるようなブランディングではないので、「変わったね」と思われる程度の範囲内に留めることを意識しました。
あとは、「リニューアル」や「更新」という言葉よりも、「リファイン」という言葉を意識的に使うようにしました。
──リニューアルにあたって、社内から斬新なイメージを求める声がありませんでしたか?それに対してどのように対応しましたか?
─村田:そうですね。当時は新しくしないといけないという雰囲気がありましたが、海外の事例なども調べて参考にしました。
「どこを刷新し、どこを踏襲するか」はデザインする前の情報整理や根回しが大切だと思います。
なぜこの方向性でデザインするのかをちゃんと説明した上で、周りを納得させるようなデザインが必要不可欠ですね。
─長尾:そのおかげで、村田さんのデザイン案は工場側でもそれほど違和感なくすんなりと受け入れられましたよ。
──デザイン決定にあたって、社内の巻き込みで気をつけたことは何ですか?
-村田: リファインというキーワードとそれにあわせた与件整理と新しくなるポイントを明確にしたことと、関係者への説明ですね。
部署長までは積み上げてきたことを理解してくれていたので問題なかったのですが、経営層との話し合いは少し大変でした。
IoTに関連付けて欲しいという要望があり、どう対応しようか悩みましたが、別途IoTを進めている取組みがあったので、いいタイミングで連携できるよう今後の展開を説明しました。
苦労した点と乗り越え方
──デザインリニューアルプロジェクトを振り返って、一番苦労した点は何でしたか?
-村田:いちばん苦労したのは、外観デザインで角の丸みをもっと大きく取りたかったのですが、内部構造的な制約からここまでしか取れなかったことですかね。長尾さんと相談し、外観的にはここまではミニマムいけるけど、というような調整が必要でした。
-長尾:工場側としては角の丸み寸法まで村田さんに決めてもらっていたので、あとは図面化するくらいしかなかったですね。
製作図を描くこと以外自分は何もしていません(笑)
正直、3DCADを使ったことがなかったので、それを勉強するのが一番大変でした。
──プロジェクト全体を通して、課題になっていたのはどの部分だと思いますか?
-村田: プロジェクト全体を客観的に見て、一番課題になっていたのはスライド部分だったと思います。スライドの設計や調整に時間を要したのではないでしょうか。
-長尾:そうですね、大変というか、設計自体は淡々とこなせばいいだけの話なのですが、新しいデザインとこれまでのデザインの融合を図る中で、ヒケが出てたりとか、成型条件など、いろんなところで打ち合わせは多く、時間は要しましたね。
最後にプロジェクトを通じた学びと今後
──お二人にとって、デザインリニューアルプロジェクトに携わったことはどのような意味がありましたか?
-村田: 前職ではプロダクトデザインをしていたのですが、セントラルユニに入社してからは、正式に上市が決定しているプロダクトの開発・設計に携わることがなく、プロダクトデザインに飢えていました。
この機会に、長年作り続けられてきた素晴らしい製品の、リファインに立ち会えて、めっちゃ運が良かったなと思っています。本当に。
-長尾:今回のプロジェクトは部署の垣根を超え、創って、造るというプロセスを実践できました。
村田さんのようにデザイナー視点で創るために的確に情報を整理し、可視化することは今後も重要だと思うので、これからも相談したいと思います。
村田さん、長尾さん貴重なお話ありがとうございました。
最後までお読みくださりありがとうございました。
今後も、社員や社内プロジェクトの様子をお届けしていきますので、お楽しみに!