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病院の建て替えや改修の計画が決まったらどうする?病院建築全体の流れについて解説!

新しく建った病院で、医療スタッフからこんな言葉をかけられたことがあります。

「患者を搬送する際、扉の間口が狭くベッドが通りづらい」
「柱が邪魔で、スタッフステーションから患者が見えづらい」

本来なら、使いやすくなっているはずの新しい環境で、なぜこんな言葉が出てしまったのでしょうか。

それは、「病院を建てる」という複雑な建築プロセスにおいて、関わる医療従事者がどのタイミングで何を決めればいいのか、流れや進め方を十分に把握できないまま、計画に参加せざるを得ない状況に一因があります。

これから病院の建て替えや増改築を控えている医療関係者に向けて、病院建築計画の大まかな流れや進め方のポイントをわかりやすく連載でお伝えしていきます。

※本記事はヴェクソン医療看護出版の書籍「スタッフを支えるICUの環境とデザイン」に寄稿した内容を一部改変して執筆しております。


病院を建てる、再整備をするときの流れ

病院を建てる、再整備をするきっかけはさまざまです。
病院の将来を見越した経営的な理由から、建物の老朽化といった外的要因まで多岐にわたります。

病院を建てる、再整備をする場合の主な理由
 1. 患者や手術件数を増やし、収入増を図るため診療機能を強化する
 2. 既存建物や設備の老朽化、施設整備
 3. 近隣に競合病院が出現する
 4. 地域医療構想から病院に求められる役割が変化する      ……等

こうした「病院を変えたい」というニーズが生まれてから、新病院の構想や仕様を決め、工事に取り掛かり、開院するまでには、数年単位の時間がかかります。

さらに、病院を建てるプロセスにはとても多くの人物が登場します。
病院で働く医療従事者やスタッフはもちろん、建築のプロである設計事務所やゼネコン・サブコン、病院の中で使用するインフラ設備や医療機器を扱うメーカー・商社など……。計画を円滑に進めるため、コンサル会社が入ることもあります。

このように、病院建築計画は、さまざまな人が関わりながら、長い年数をかけて進んでいくのです。

病院建築の5つのフェーズ

病院建築計画は大きく5つのフェーズに分かれています。
基本構想・計画→基本設計→実施設計→着工・施工(工事期間)→引っ越し・開院の順に沿って進んでいきます。

1. 基本構想・計画

これから病院が目指していく「なりたい姿」を考えるフェーズです。
病院の理念や方針、地域医療構想などに基づき、病床数や手術室数、外来患者見込みなどの病院規模や機能をはじめ、コンセプト、建築スケジュールなど、計画の大きな枠組みを決めていきます。病院の経営層が主体となって取りまとめを行います。

2. 基本設計

基本構想・計画の内容をもとに具体的に図面を描いていきます。建物全体の骨格となる柱や建物階層、建物面積、階段など建物の構造に関わる内容の図面化を行います。さらに、各部門配置と大枠の面積を検討し、病院全体を図面化していきます。各部門に対して、レイアウトについての要望を中心にヒアリングが実施されます。

3. 実施設計

図面を詳細に検討し、設計していきます。各部屋に必要なコンセント・医療ガス、情報LANの配置や数量の検討をはじめ、照明や空調の配置場所など、天井面、壁面、床面とそれぞれにどんな設備が設置されるかを詳細に図面化していきます。

確定したレイアウトの中身を詰めるフェーズであるため、医療機器を含め、運用を想定した要望をヒアリングの中で挙げることになります。(なお、医療機器の購入は「5. 開院」の直前ですが、医療機器に必要な電源や医療ガス設備などの設備対応はこのタイミングで要望を挙げる必要があります。)

4. 着工・施工

病院を建てるフェーズです。実施設計図をもとに、工事請負契約を締結した施工業者が工事を行います。設計図の内容に齟齬が無いか、変更希望が無いか、総合図という図面で最終的なヒアリングを行いながら施工を進めます。

5. 開院

新しい病院が竣工し、施工業者より引き渡しを受けた後、必要な医療機器や什器・備品類を搬入設置し、取り扱い説明やシミュレーションを行った後、開院となります。

病院建築計画を悔いなく進めるうえで知っておきたいポイント

さまざまな人が関わる病院建築計画。それゆえに、進み始めると後戻りできないこともあります。計画に関わるときに、どのようなことを知っておくといいのでしょうか。

部門ごとに求められる施設基準が異なる

病院には患者を治療するために、診察室や検査室、手術室など、いろいろな役割の部屋があります。
患者に適切な医療を提供するため、部屋ごとに必要とされる広さや設備など、細かな基準が定められています。
特に、集中治療室(ICU)などの特殊な病室は、診療報酬の算定に施設基準が条件となることもあるため、それらを考慮して内容を決めていかないといけません。

フェーズが進むほど、変更は困難になる

フェーズ3「実施設計」以降、大きな変更は困難になります。
そのため、フェーズ2「基本設計」で納得できる図面になるまで議論しておくようにしましょう。

病院規模が大きいほど、合意形成が複雑になる

病院建築計画は、規模が大きさに比例して、検討事項が多岐にわたり、関わる人数も増え、合意形成に時間を要し、複雑になっていきます。
病院規模や計画期間によってフェーズの進め方も異なりますので、基本の流れを把握し、各フェーズで決めることを理解しておく必要があります。

関わる医療者にとって大事なのは、早めに思いを言語化し、要望を挙げること

新しい病院で「こんなはずじゃなかった!」と後悔しないためには、病院建築計画の流れを把握し、しかるべきタイミングで意思決定者や設計者に要望を挙げていくことが必要です。

現状の運用から感じる不満や改善点、そこから紐解ける「こんな環境で働きたい」という思いをあらかじめ言語化しておくことで、計画が進んだ際、関係者に「要望」として伝えやすくなります。

予算や建物構造の関係で要望が通らないこともあるかもしれませんが、この思いがあるかないかで、完成した環境への納得感は大きく変わると思います。

セントラルユニができる支援

セントラルユニでは、病院が完成した後の「こんなはずじゃなかった!」を無くすための取り組みをしています。

部門内での課題や要望整理のお手伝いをはじめ、病院建築計画におけるさまざまな支援を行っています。「どこに相談していいか分からない」という場合は、ぜひお気軽にセントラルユニまでご相談ください。

次回からは、各建築フェーズで医療従事者の皆さんに気にしてほしいポイントについて詳細にお伝えしていきます。次回もご覧いただけると嬉しいです!


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本記事では病院建築全体の流れをお伝えしていますが、そのなかでもICUにおける空間づくりに特化した専門書籍がございます。
各分野の専門家による洞察と経験を本にまとめ「せっかく造ったのに」と後悔することのないICUを実現するための知識が集約されています。よろしければ、ぜひお手に取ってご覧ください!

ヴェクソン医療看護出版 「スタッフを支えるICUの環境とデザイン」

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