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【イベントレポート】幻肢痛チャリティー トーク&ライブ

幻肢痛とよばれる痛みがあること、その痛みによって苦しんでいる人がいることを、より多くの方に知ってもらいたい―—。

そんな思いで、幻肢痛チャリティーイベントが開催されました。
2月11日に当社ショールームで開催された様子を、イベントレポートとしてお届けします。

幻肢痛とは?
病気や事故で四肢を切断、もしくは神経を損傷して感覚を失ったにもかかわらず、以前と変わらず存在するかように感じる手足を「幻肢」といいます。幻肢の位置や長さなど、感じ方は人によって様々です。
その幻肢が激しく強く痛むことを「幻肢痛」といいます。
幻肢を経験している方の多くが”幻肢が痛い”ことに悩まされており、日常生活(ADL)や生活の質(QOL)が大きく低下している場合も少なくありません。

幻肢痛は難治性で治療薬がなく、痛みの緩和や機序の解明が急がれています。    

▼イベント概要はこちら

手がないことよりも、痛みが障害になっている

イベントは2部構成で行われました。第1部のトークセッションは「幻肢痛緩和への取り組みについて」というテーマで、主催者である株式会社KIDS 代表 猪俣様がご登壇されました。

猪俣 一則(いのまた・かずのり)
株式会社KIDS 代表、NPO法人Mission ARM Japan 副理事長、東京零環ライオンズクラブ 障害福祉支部会長、デジタルハリウッド大学・HAL東京カーデザイン 非常勤講師。
右上肢機能全廃を患い、その代わりと身につけたデジタル技術を活かし、建築・土木・自動車のデザインに従事、恩返しプロジェクトとして上肢障害者のQOL向上を目的に2015年活動スタート。幻肢痛緩和リハVR開発、自己リハの機会「幻肢痛交流会」を主催し、延べ70名を超える当事者をピアサポート、現在、下肢、頚損、脊損への対応も開始。

「幻肢痛に悩む人同士のコミュニティをつくりたい」という思いで設立された幻肢痛交流会の取組や、ご自身の幻肢痛の体験談、当事者として研究開発を進めている「痛みを緩和するVRシステム」の開発経緯などをお話されました。

印象的だったのは「手がないことよりも、痛みが障害になっている」という言葉です。

幻肢痛の痛みは人によってさまざまで、猪俣さんご自身は幻肢の手の血管に砂利が入っているような鋭い痛みに長い間苦しんだといいます。
そして、痛みがある間はほかのことが考えられず、明日やこれからのことを考える余裕はなかったそうです。

ご自身の経験から、猪俣さんはこう語ります。
幻肢痛に苦しむ人は、痛みが緩和してようやく未来のことが考えられるようになる。VR訓練によって痛みが緩和された患者さんの中には、70歳で再度免許をとって奥さんをドライブに連れて行きたいと志している人もいる。それこそがゴールで、それを一緒に達成したい。」

痛みというのは主観で、当事者にしか分からないもの。
だからこそ、当事者自身が「つくり手」となって痛みを緩和するVRシステム開発や、訓練を継続できる環境づくりに精力的に取り組まれている猪俣さんの熱い想いが伝わってくる、素敵な講演でした。

幻肢痛患者にとって希望の光、痛みを緩和するVRシステム

当事者パネルディスカッションでは、東京工業大学科学 技術創成研究院 未来の人類研究センター長を務める伊藤亜紗さんをモデレータにお招きし、6名の当事者に幻肢痛の痛みやVR訓練の効果について語っていただきました。

写真 左:当事者の高橋さん 写真 右:伊藤 亜紗先生

伊藤 亜紗(いとう・あさ)
東京工業大学 科学技術創成研究院 未来の人類研究センター長、リベラルアーツ研究教育院教授。MIT客員研究員(2019)。専門は美学、現代アート。もともと生物学者を目指していたが、大学3年次より文転。2010年に東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻美学芸術学専門分野博士課程を単位取得のうえ退学。同年、博士号を取得(文学)。主な著作に『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)、『どもる体』(医学書院)、『記憶する体』(春秋社)、『手の倫理』(講談社)。WIRED Audi INNOVATION AWARD 2017、第13回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞、第42回サントリー学芸賞受賞。

同時進行で、会場の大きなホワイドボードを用いてグラフィックレコーディングも行いました。

壁面のホワイドボードに描かれたグラフィックレコーディング
グラフィックレコーディングを担当した 鹿島理佳子さん

当事者が語る「幻肢の在り方」や「幻肢痛の感じ方」は様々で、腕をハンマーで叩かれるような痛みや、ペンチで足の指の先を潰されるような痛み、中には気絶するほどの痛みと20年以上闘ってきたという方もいました。

そんな痛みが、猪俣さんが開発されたVR訓練システムを使い始めてから緩和されたといいます。

痛みの和らぎ方や訓練効果も人によって異なり、常に100㎏近い重りがついているように感じる腕が瞬時に軽くなったという方や、障害がある腕の可動範囲が広がったという方もいました。
訓練を重ねることで、幻肢に触覚を感じるようになったという方もおり、様々な効果が出ていました。

幻肢痛に苦しむ人にとって、痛みを緩和するVR訓練システムはとても画期的なものなのだと感じました。

フルートとピアノが織りなす美しいハーモニー

第2部では、視覚障害を持つフルーティスト綱川 泰典さん、ピアニスト酒井 亮さんによるライブコンサートが行われました。

綱川 泰典(つなかわ・やすのり) フルート奏者
埼玉県出身。10歳よりフルートを始める。武蔵野音楽大学音楽学部器楽科卒業。
これまでに「ウインズ・ソロコンテスト」金賞及びヤマハ賞、「第6回ベストプレイヤーズコンテスト」部門優秀賞、「第10回日本クラシック音楽コンクール」全国大会入選、「第1回ドイツ音楽コンクール」優秀賞などを受賞の他、埼玉県の三大偉人の賞のひとつである「第1回塙保己一賞」奨励賞、第12回チャレンジ賞を受賞している。
リサイタルやコンサートの企画、全国各地での演奏活動を行う一方、カーネギーホールや ウィンザー城での演奏、ダスキン愛の輪研修生として渡欧する等、海外でも活躍。炎のコバケンこと世界的指揮者である小林研一郎氏の仲間オーケストラにも所属し、スペシャルオリンピクスの支援等障害福祉や震災復興のためのチャリティーを行っている。その他CD録音、TV・ラジオ出演、後進の指導も行っている。

酒井 亮(さかい・あきら) ピアノ奏者
1997~2003年まで、バンドALMA(アルマ)のキーボーディストとして活動。
その後ピアニストとして、多数のボーカリストやバンドのライブのサポート、様々なコンサートに出演。
BGMの作曲家としても活動。映画「with…若き女性美術作家の生涯」、MBS毎日放送ニュース番組「ボイス」、PCゲーム「遥かに仰ぎ麗しの」・「神聖にして侵すべからず」他。CD「天地真理35thアニバーサリー」をはじめ、ゲームBGMの二次創作CDに、演奏や作編曲で数多く参加。現在フリーランスで活動中。

写真 右:綱川さん 写真 左:酒井さん

お二人が奏でる音楽はとても繊細で優しい音色で、その世界観に引き込まれ、約1時間のコンサートはあっという間に過ぎていきました。

当事者ならではの工夫がつまった展示・体験コーナー

展示・体験コーナーでは、幻肢痛を緩和するVRシステムをはじめ、肩パッド・短下肢補装具の展示やボディスキャンが行われていました。

片手で使える便利グッズやお作法Book、災害時の栄養補助食品「ライフスープ」が販売され、多くの方で賑わいをみせていました。

写真奥:VRシステム、ボディスキャン  写真手前:ライフスープの販売
片手で使える便利グッズの展示とお作法Bookの販売

当事者自身がつくり手になるのは、わたしたちの理想

このイベントに関わらせてもらい、当事者自身が「つくり手」となる猪俣さんの取組は、まさに私たちがブランドコンセプトとして掲げる「つかう人を、つくる人に」の目指す姿であると感じました。

どれだけ当事者意識を持とうと努力しても、メーカーである私たちには限界があり、医療スタッフと全く同じ目線には立つことはできません。
だからこそ、医療スタッフを巻き込み、当事者にしか分からないことを環境づくりに反映させていく。
これが「理想の環境づくり」になると、今回のイベントを通じて確信しました。

同時に、医療環境というフィールドを出た先で、患者さまがどんな風に過ごしているのかを知ることは「医療環境のつくり手」として、大切な視点になると感じました。

これからも、患者さまが安心して治療を受け、元気に社会復帰ができるよう、医療環境づくりに寄与していきます。


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